2014/01/20
「つわり、精神不安定、体のダルさ、胃の圧迫、陣痛」そして「禁酒、禁煙、体重制限」
妊娠出産に伴って起こる辛い事とは、こんな感じだろうか。
サラを生むまでに、なんとまぁ色んな苦痛を乗り越えてきたものだ。
その中で、他を差し置いて何よりもダントツに辛かったのが、『よだれづわり』だ。
この『よだれづわり』、一般的にはあまり知られておらず、私も自分が患って初めて知った。
症状を簡単に説明すると、”よだれが出る”ってだけで、
産婦人科の先生ですら「気にしすぎなんじゃない?大したことないよ」
と相手にしてくれない微妙な存在なのだ。
もっとも、出るといってもその量が生半可ではないので、実は”大したこと”なのだが![]()
どんどん何処からともなくツバが沸いてきて口いっぱいに。
ちょうど木の実をほっぺたに貯めたリスの様な形相となり、1分に一回はぺっと吐き出す羽目となる。
口に満杯というと実は結構な量で、数字にすると30mlくらいあるだろうか。
「口にたまってペッと出す」これを毎分繰り返すのだから、
ツバを生産するために生きている気分になってくる。
体験したことがない人は、口をそろえて「飲みこめばいい」という。
しかし、現実は飲み込めるような代物ではない。
口の中で泡の状態と化し、それはビールの泡を想像してもらうと少し似ている。
ビールの泡だけを24時間飲み続ける。これが果たしてできるだろうか?
しかも妊娠中なので、オエッっとえずくこともプラスαだ。
夫にそう訴え八つ当たりをしてみたけれど、
「でもツバでしょ?」という心の声が見え隠れし、こちらの気分も悪いので相談するのはやめた。
周りに理解してもらえず、一人孤独に戦わなければならない。
これが『よだれづわり』の最大に辛いことかもしれない。
さて、ツバでことさら困ったのは会社でどう過ごすか。
仕事上の用件を言おうとしても、ツバで口がいっぱいになってしまい、会話も電話もままならない。
同僚の前で吐き出すわけにもいかず、本当に困り果てた。
結局は苦肉の策で乗り切ったのだが、よくやったと我ながら勲章モノだった。
まず、必須携帯品として空ペットボトルに布カバーをつけて持ち歩き、
飲む振りをして中につばを流し入れる。
カバーをつければ中が何なのか判らないし、
まさか口に入れるでなく口から出しているとは、誰も想定していないハズ。
というか、気づかれないように上手くやるのだ。
飲むフりとは言え、頻度が多すぎてさすがに不自然なので、並行して”のどが渇く妊婦”の演技もする。
さらにマスクを着用して、リスのようなほっぺたを隠す。
これで、少々口の脇からモレても大丈夫だ。
しかし、ペットボトル持込が許されないシチュエーションも、会社という場には多々あった。
そんな時は、大き目のハンドタオルを携帯し、気分がすぐれないフリをしながら、口を隠してツバを排出する。
しばらくすると(割とすぐに)タオルのキャパオーバーとなるので、
「お手洗いよろしいですか?」とその場を離れ、新しいタオルと交換。
電話も同じ手法を使って、ハンドタオルを口に当てて、ツバを出しつつ応対した。
”リスほっぺ”状態のときに誰かに話かけられるとかなり困るので、
いつ誰に呼び出されるかヒヤヒヤ。
次にどんな行動が起こるのかを予測し、その際のつば対策を常にシミュレーションしていた。
毎日毎日ツバのことばかりを考え、精神が壊れそうだった。
ここまで鬱憤を晴らすがごとく一気に書いたが、文章にしてみると汚い!
けれど、思い出しても全然笑えない狂気的な日常だった。
つわりの最中、何とかならないものかと何度も何度も何度もググりまくった。
しかし結局のところ有効な対策は見つからず、医者も相手にしてくれず、臨月まで症状は続いた。
といっても妊娠8ヶ月くらいからは症状が軽くなったが。
妊娠3ヶ月頃から正味半年もの間付き合った。長い長い時間だった。
二度と経験したくない嫌な嫌な記憶。
これを思い出す時は、二人目は産めないなと心は固まる。